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福岡地方裁判所 昭和27年(行)32号 判決

原告 松村薦

被告 大川税務署長

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は「被告が昭和二十七年六月二十日訴外田中織物有限会社の国税滞納処分として別紙目録記載物件につきなした公売処分の無効なることを確認する。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、被告は訴外田中織物有限会社(同会社は昭和二十七年六月十日福岡地方裁判所久留米支部において破産宣告を受けた。)の昭和二十六年度源泉所得税、法人税、利子税、延滞加算税及び滞納処分費等合計金二十八万二千七百五十円の滞納処分として、昭和二十七年六月二十日右会社所有の別紙目録記載の物件を金二十五万円と見積つて公売に付し、訴外彌吉修造に対し金三十万円で落札を許した。

しかしながら右公売処分は次の理由により違法無効のものである。(一)右物件は公売当時金百万円以上の価値を有し、右見積価格及び公売価格はこれに比し著しく低廉で、かかる不当に廉価な価格による公売処分は滞納者の財産権を侵害するものであるから違法である。(二)又右入札に当り被告は当日午前十時頃他の入札者の参加をまたず破産会社代表者の姻戚に当る前記彌吉一人の入札を採用し、他の入札希望者が来会して入札を申込んでもこれを許さなかつたからこの点からしても右公売処分は違法である。(三)更に右公売に際して公売物件の範囲品目を明確にしない違法があり、その為関係者は公売物件に籍口して他の破産封印を受けた物件まで封印を損壊して搬出している。

以上のとおり本件公売処分は違法で無効というべきであるから、原告は被告のなした右公売処分の無効の確認を本訴において求めるものである。と述べた。(立証省略)

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中訴外田中織物有限会社が原告主張の日に破産宣告を受けたこと、被告が原告主張の日右訴外会社の税金の滞納処分として本件物件を金二十五万円と見積り入札の方法で公売に付し、訴外彌吉修造が金三十万円で落札したことは認めるが、右彌吉修造が訴外田中織物有限会社代表者と姻戚に当るとの点は不知、その余の原告主張事実は否認する。

一、仮に右公売当時本件物件の価格が百万円以上であつたとしても被告が右見積価格及び公売価格で公売するに至つたのは次のようなやむを得ない事情に基くものであつて、何等違法の措置ではない。すなわち、本件物件の公売は前後四回にわたり行われ、昭和二十七年五月二十四日の第一回公売において右物件の見積価格を金百十二万円と定めて公売に付したが、最高入札者は訴外彌吉修造の金百万円で見積価格に達しない為落札に至らず、再公売に付するに至つたが、当時たまたま繊維品の輸出不振の為綿糸の下落に遇い、従つて織機の需要が低下しつつある状況にあつたので、同月二十九日の第二回公売においては見積価格を金九十九万円に引下げたが、最高入札価格は金六十一万円で前同様見積価格に達しない為落札を許さず、そこで同年六月四日の第三回公売においては更に見積価格を金五十万円に引下げて公売に付したところ、最高入札者は訴外彌吉修造及び山下元治の金七十万円で他は金五十万円でいずれも見積価格に達していたが、右の同価格の最高入札者が国税徴収法施行規則第二十五条による追加入札を放棄した為第三回公売も落札に至らなかつた。次で同月二十日の本件公売期日においては当時織物業界は愈々不振で綿糸の暴落、操業短縮、休廃業者続出等の為織機に対する需要は益々低下しつつある状況であつたので右事情を考慮し、本件公売物件の価値維持と滞納税額確保の為やむなく見積価格を更に金二十五万円に引下げて前叙のとおり公売に付したものである。

二、次に本件公売期日の入札者は訴外彌吉修造一名のみで、他に入札希望者はなく、従つて入札を拒否したような事実はない。しかも右公売については六月十四日の公売公告において「入札は六月二十日午前十時西牟田役場において行う。但し開札は同時とする。」と明示していたが、当日は他の入札希望者の便宜を計り定刻より約一時間以上もまつた上で開札した次第である。従つてこの点についても被告には何等違法の点はない。

三、前記公売公告には公売物件として「一、広幅織機二十四台、一、右附属設備一式」と明記してあり、しかも公売当日公売場所に入札人心得書及び公売物件目録をおき一般の縦覧に供した上、公売を実施したのであるから、本件公売物件の範囲品目は確定しており、毫も原告主張のような不法不備の点は存しない。

以上のとおり本件公売手続には違法の点はないが、仮に原告主張の点につき違法があるとするも、右事由はいずれも重大かつ明白な瑕疵といえず、取消し得べき事由たるにすぎない。従つて取消事由を以て当然無効の確認を求めた本訴請求は失当である。と述べた。(立証省略)

三、理  由

被告が訴外田中織物有限会社(同会社は昭和二十七年六月十日福岡地方裁判所久留米支部で破産宣告を受けた。)の昭和二十六年源泉所得税、法人税、利子税、延滞加算税及び滞納処分費等合計金二十八万二千七百五十円の滞納処分として昭和二十七年六月二十日右会社所有の別紙目録記載の物件を金二十五万円と見積り入札の方法で公売に付し、訴外彌吉修造が金三十万円でこれを落札したことは当事者間に争がない。

原告は右見積価格及び公売価格は著しく廉価であつて、かかる不当に廉価な価格による公売処分は滞納者の財産権を違法に侵害するものであるから、無効である旨主張するから考えるに、証人彌吉修造の証言により認められる同証人が本件物件を落札後二、三ケ月後にこれを金七十万円で他に転売したとの事実、本件物件の第三回の公売のとき(昭和二十七年六月四日)の見積価格が金五十万円であつたのに対し、これを七十万円で入札したものが二名あつたとの後記認定の事実(なおこの点は被告において自認するところである。)並に証人船津利市江島菊一の各証言を綜合すると、本件公売(第四回目)実施当時(同年六月二十日)の本件物件の市場価格は少くとも金七十万円であつたと認めるのが相当である。而して公売に当つて収税官吏は客観的な市価を標準とし、その財産の妥当な価格を見積るべき義務があり、特別の事情がないのに著しく低廉の価格を見積り、かつ著しく低廉な価格で公売することは滞納者の権利を侵害するもので違法というべきである。(昭和十年五月三十日行政裁判所判例、美濃部達吉著昭和十年度公法判例評釈参照)もつとも公売価格が一般市価を相当下廻ることは通常の事例であるから、見積売価並に公売価格が市価より低廉であるとの一事を以てその公売処分が直ちに違法になるものということはできない。

そこで本件について右特別の事情の有無を見るに、成立に争のない乙第四号証、証人田中泰造、有馬末男、船津利市、佐藤直吉、彌吉修造の各証言を綜合すると、本件物件の公売は前後四回にわたつてなされ、昭和二十七年五月二十四日の第一回公売においては、見積価格を金百十二万円とし又同月二十九日の第二回公売においては見積価格を金九十九万円と定めてそれぞれ公売したが、第一回の折の最高入札は金百万円、第二回の折は金六十一万円でいずれも見積価格に達しない為落札するに至らず同年六月四日第三回の公売を実施することとなつたが、当時織機の需要が低下していたのでこれを考慮の上見積価格を金五十万円に引下げて公売したところ、最高入札価格は金七十万円で見積価格を超えていたけれども、右価格の入札者が二名あり、右二名がいずれも国税徴収法施行規則第二十五条による追加入札を放棄した為落札するに至らず、更に本件公売(第四回)をなすに至つたこと、而して右公売をなすに際し当時の織機の需要の情況、殊に本件物件による製品が外国向けの製品でその需要がなく、従つてその機械の需要も低下していた事情と既に前三回公売に付し、いずれも前叙の理由で落札に至らなかつた経緯を考慮し、殊に滞納税額を確保する為見積価格を金二十五万円と定めて公売に付したものであることを認めることができるのであるが、右認定の公売の経緯並びに当時の経済事情等を斟酌して考えてもなお本件の見積価格並に公売価格は前示認定の市価に比し著しく廉価であると認めざるを得ない。しかしながら右の程度の違法は未だ本件公売処分を無効ならしめる程度に重大かつ明白な瑕疵ということはできず単に取消し得べき瑕疵たるにすぎないものと解するを相当とする。而して右違法な公売処分の取消を求める訴訟はその処分をした税務署長に対し再調査の請求をするか又は国税庁長官又は国税局長に対し審査の請求をした後でなければ提起し得ないことは国税徴収法第三十一条の四に徴し明かであり、原告は本訴において再調査の請求又は審査の請求をした事実は何等主張せず、しかもその請求の趣旨として申立てるところは前記公売処分の取消を求めるのではなく、その無効確認を求めているのであるから、原告の主張は結局理由がないといわなければならない。

次に被告が本件公売に当り訴外彌吉修造一名のみの入札を許し、他の入札希望者の入札を許さなかつたとの原告の主張につき判断するに、右主張事実を認めるに足る証拠はなく、却つて成立に争のない乙第一号証、証人佐藤直吉、彌吉修造の各証言を綜合すると、本件公売期日は当日午前十時に入札を開始し、同時に開札することとなつていたところ、右入札時刻に入札したのは訴外彌吉修造一名のみで、他に入札した者はなく、この為被告は他の入札希望者の便宜を計り、開札時刻を約一時間遅らしたけれども結局入札する者がなかつた事実を認めることができる。従つて右原告の主張も理由がないというべきである。

更に原告は被告が右公売をなすに当り公売物件の範囲を明確にしなかつた違法がある旨主張するから考えるに、前顕乙第一号証成立に争のない乙第二号証、証人佐藤直吉の証言を綜合すると、本件物件を公売するに当り、被告は西牟田役場並に大川税務署に物件名を明記した公売公告(乙第一号証はその原案)をなすと共に公売の場所に公売物件の目録(乙第二号証はその原案)をおき、公売物件の範囲を明かにして公売に付したものであることが認められ、右原告主張事実を認めるに足る証拠はないから、この点についての原告主張も亦採用するに由ない。

以上判示した理由により、原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 鹿島重夫 大江健次郎 武居二郎)

(別紙目録省略)

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